秩父市街を南北に流れる荒川の西岸、南に武甲山をのぞむ敷地にこの複合建築はあります。クライアントは計画の時点で様々な精神障害者社会復帰施設を運営していましたが、それらを利用してもなお、精神障害者が地域で自らの居場所をみつけることには困難がありました。 長年入退院を繰り返して高齢期を迎えた人には、退所期限のない終の棲家ともなりうる「家」(福祉ホームB型)が必要であり、改めて働きたい人、初めて職に就こうとする人にとっては 具体的な就労経験の場(通所授産施設)が、また、すでに運営していた地域生活支援センターも拡大する需要に対応するための場所が必要だったのです。
私たちは3つの機能一体的な建築とし、南北に貫く軸線=上に相互利用が可能な諸室を配置することで、互いの施設がのぞみ合える空間構成としました。様々な人が通るその動線上には談話コーナーなどの多様な居場所を設け、3つの機能の複合化の利点=「連携と安心の創出」の最大化を図っています。
今日、様々な福祉施設において個室化が進んでいますが、個の空間を活かしつつそれらをいかにつなげ、集って暮らす意味を持たせるのかは「居住系施設」の命題といえます。
福祉ホームでは、居間や食堂の共用部を中心に、その両側に個室を配置しました。この配置により個室に入るためには必ず共用部を通らなければならず、必然的に交流が生まれます。精神障害者の「社会復帰」施設である福祉ホームでは、このやや恣意的な空間構成が「集って暮らす意味」を生み出すのではないかと考えました。
設計前に行った既存施設での宿泊体験で、社会復帰しようとする精神障害者たちの経済的困難を目の当たりにしました。冬季の外気温が-5℃を下回る秩父地方にあっても、自費で負担する電気代を節約するため暖房をつけずに過ごしていたのです。
利用者が負担する暖房費を最小限に抑えるため外断熱工法を採用し屋根・外壁の躯体部は熱伝導率 0.02W/m・K を下回る断熱材でその外側を完全に覆っています。実測調査では、外気温の変化度合いに対して室温変化度合いが極めて小さく保たれていることがわかっています。