既存に残す療養系の病床以外の病棟を、敷地内にて増築するというプロジェクトである。精神科病棟の計画セオリーに照らして、一般社会における集団スケールのバリエーションや人間関係の段階性を建築的に翻訳し、ベッド(個人)~病室(家族)~クラスター(近隣社会)~病棟(地域社会)というプログラムを前提とした。小グループによる生活単位のベースとなる「クラスター」には15人前後という小さな規模設定を行い、食事・談話・入浴・洗面トイレ・洗濯・物干しといった生活行為を完結しうる建築的な装備やしつらえを用意している。

クラスターによる病棟構成は、病状による区分、開放処遇と閉鎖処遇、大まかな男女区分、といった運営面での柔軟性にも寄与している。さらには、クラスターどうしの接点に調整用の個室を配置することにより、各クラスターの病床数の変化にも対応しうる。

インテリアにおいては、「明るさ、暖かさ、清潔感、上品さ、シンプル、コンパクト」という、発注者から提示されたキーワードを尊重し、やわらかい雰囲気を持ち暖かみのある素材として、木材の「ブナ材」と金属の「アルミ材」選択した。天然素材の色や肌ざわりを生かしつつ表面仕上げを厳選した上で、それらの素材を様々に組合せてインテリアを構成している。「ブナ材」は腰壁・建具・造作家具・サイン・照明器具等の構成素材として活用するだけでなく、置き家具についても同材近似色のものを選定することにより、インテリアにおける統一感の維持に努めた。「アルミ材」はアルミサッシュ・ルーバー・パンチングメタル・サイン等に利用し、マット状のやわらかい雰囲気で仕上げている。