山あいのなだらかな南傾斜を持つ敷地と田園風景は、設計するものにとって創作意欲を強くかき立てられるものであった。点在する住宅などの建物は低層で、周辺の緑と山々の中で、見事に馴染みつつも存在感がある。6,000㎡にも及ぶ今回の施設は、これらの住宅とは明らかにスケールが馴染まない。段状の敷地形状を最大限利用して、外観上2層を越える高さをつくらないこと、建物を小さなユニットに分解しながら、住宅のスケール感を出来るだけ逸脱しないことを基本姿勢として、建物を構成した。
個室ばかりで構成されるその小さなユニットを外部的な廊下でつなぎ、地域を含めた外部を取り込み、そこに様々な居場所を用意した。
これまで出来ていたことが出来なくなり、介助者の助けなくしては生きることが困難になってしまったお年寄りに、残された能力を最大限に引き出しながら、いきいきと生活していただくために、出来るだけプライバシーに気を使いつつも、人の顔が見え、地域の中で暮らしていることを実感できるような建築とした。
掲載誌
- 書籍 『建築設計資料 103 ユニットケア』(2005.11)