札幌市郊外にある民間精神科病院の増改築。

川の字に並んだ既存3棟のうち最も古い、外来診療部門・管理部門を含んだ病棟を建て替える計画である。残る2病棟の背後に新病棟(D館)、前方に外来診療・管理部門にデイケア部門を含んだA館を配置することで効率の良い動線が得られる計画としている。

病棟部門(D館)

患者は、入院治療を開始したと同時に社会復帰へのリハビリが始まると考えられる。つまり、入院期間が今後如何に短くなろうとも、患者が段階的に社会との交流を取り戻すことが出きる環境が求められるものと考えた。その結果、

  • 病室は個室、もしくは個室的多床室の構成によりプライバシーを確保する
  • 病棟内を小規模のクラスターに分解することによって集団処遇からの開放と共に、治療側の選択として症状等によるきめ細やかな患者の仕分けを行うことが出来るようにする
  • 水廻りと談話コーナーを隣接させ自然発生的なコミュニケーションの場を提供する
  • 広さの異なる様々なコミュニケーションの場を設定し、病棟の空間にメリハリを与える
  • スタッフステーションをオープンカウンターとし、患者さんとスタッフの距離をなくす

などの工夫をしている。結果として、ほぼ井桁型の病棟形状となり、その広がりに比して看護動線が短い病棟となっている。

外来診療・デイケア部門(A館)

外来部門は、これからの精神科治療の中心であり、地域で生活する精神障害者にとってよりどころである。地域の中で灯台のような存在になりうる、開放的で明るく、一方でプライバシーに配慮した構成としたいと考えた。 開放性とプライバシーとは一見、相反する環境のようだが、空間の広がりを利用し、方向性を明確にすることによって、プライバシーを高めることが出来る。エントランスホールにある総合受付を通り過ぎ、光りあふれる中庭に誘われるようにして向かう、診察待ちは、安心して空間に身を置くことが出来るよう、一般動線と切り離した配置とし、待つ人の後ろを、他の人が通ることがないように配慮した。一方、診察を終えた患者さんが過ごす投薬、会計待ちは、喫茶店で時間つぶしをするような感覚で待つことができる様配慮した。 一方、デイケアは他の各棟の軸線と45度振った配置とした。地域生活者の支援部門として、新しい基軸を与え、動きのある表情をつくるようにしたいと考えた。

デザイン計画

既存棟のデザインを全体の中に自然にとけ込ませ、それでいて、病院の新しい表情を作り上げる様々な試みがある。特に既存の外壁タイルは、天候の影響を受けやすい色彩であり、周囲の景観に非常に良くとけ込んでいる。しかし、ともすれば景観の中に埋没してしまう可能性があるため、アプローチ側はその存在をやさしくアピールするために、白い大判のタイルを利用して浮き立たせることを考えた。 結局、この白が新棟のテーマカラーとなり、全体を通して、インテリアに影響のある木製の腰壁も白色系の染色を施すことにより、病院全体を明るく清潔な印象の表情にまとめ上げることが出来た。