公的な病院で初の採用
地域中核病院を新築する場合、最近でこそ免震構造を採用することは当たり前になっていますが、わが国で最初に免震構造を採用した公的病院は意外に新しく、1998年に竣工した東京都下の稲城市立病院です。
本来、病院は地域に医療を提供する施設です。災害時にはその役割はいっそう大事になります。そのときこそ病院は機能を保持し、救助活動をバックアップする必要があります。わが国の建築にかかわる法律では、建物は大地震の際、人命を守ることを最優先とした強度が定められており、部分的な損壊はやむを得ないとされています。
病院は人命を守るだけでなく、機能を停止させない性能が求められます。入院患者を別の場所に避難させることなく、周辺で被災した人びとの治療にあたることができなければなりません。
そのことが長年念頭にあった当社初代社長大場の強い意志を受けて、稲城市立病院に免震構造を採用するよう、施主の説得にあたりました。しかしそれは、容易な道のりではありませんでした。
理由として、前例がないこと、建設コスト増や工期の問題、特殊技術のため公共建築では重要な発注の公平性が保てないのではないか、という数々の懸念があったためです。それに対して、私たちは一つずつ説明をつづけました。
1995年、阪神淡路大震災という不幸な出来事が起きました。結果として、このことが後押ししたことになり、病院における免震構造の必要性の理解を得ることができ、採用の運びとなりました。
今日のように公的病院で免震構造の採用が進んだことは、地震国であるわが国にとって、望ましいことであり、国や県レベルではなく人口10万に満たない稲城市の大英断をきっかけに、その先鞭をつけることができたことを誇りに思います。

稲城市立病院 公的な病院で国内初の免震構造採用事例

地下ピット内に設けられた免震部材とオイルダンパー
2008年発行『50周年記念誌』より抜粋