共同建築設計事務所がはじめて実現
「個室的多床室」と呼ばれる4床室は、1994年に開院した西神戸医療センターで私たち共同建築設計事務所がはじめて実現した病室の形で、その後いくつかのバリエーションを考案しつづけています。
廊下側と窓側に2ベッドずつ並ぶ従来型の4床室では、窓側のベッドの人気が高く、廊下側のベッドにいる患者は窓側が空くと移動を希望して、スタッフは医療行為と何ら関係のないベッド移動を余儀なくされる、という現象がたびたび起きていました。
なぜ、そういうことが起きるのでしょう。廊下側には窓がないために窓側との環境の格差が大きく、しかも、窓の開閉や遮光などのコントロールが窓側の患者のみに専有されているからです。
そのような問題を解決し、多床室でありながら、より個室的な環境を生み出すことをめざした4床室が「個室的多床室」です。
「個室的多床室」の一番の特徴は、ベッドごとに設けられた窓です。これによって、同室の患者を気にすることなく、採光、通風、眺望を患者自らがコントロールできるようになります。
また、患者同士のベッドの頭の位置を十分に離し、ベッド脇に個別の家具を設置することによって、一人ひとりのエリアを明確にし、落ち着きのある療養環境を形成します。このことは治療活動でも有効に働き、医療機器を設置してもなお、スタッフが治療にあたるスペースを十分に確保できることにつながっています。
もちろん、このような形をとっても、音やにおいの問題を解決することはできません。「プライバシー」ということに限っていえば個室にかなうものではありません。しかし、現在の看護スタッフの人数や病棟の規模から考えると、全個室病棟の実現はなお多くの克服すべき課題があります。それを補完する意味で「個室的多床室」は有効に機能していると自負しています。

金沢社会保険病院

稲城市立病院

西神戸医療センターの廊下側から見た透視図

西神戸医療センター平面図 LWは光井で、ベッドごとに固有の 窓がある
この提案の実現以前から、東京大学の長澤泰教授(当時)を中心とする研究グループが同様の議論をしていた
同グループに参加し、当社に在職していた山下哲郎氏(現・工学院大学教授・建築計画)がそのアイディアを提供し、実現に至った
2008年発行『50周年記念誌』より抜粋