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いつでも頼りになる治療のための病院
十和田済誠会病院
青森県十和田市内にある精神科病院の移転新築プロジェクトです。
計画が始まった2017年当初、街の中心地にある既存病院敷地での建替えを計画していましたが、 法的規制が厳しく計画の自由度が下がることや、複数のステップにわたる長期に及ぶ建替えとなることもふまえて検討した結果、十分な拡がりのある新敷地にて移転新築する計画となりました。
風土に即した病院建築
十和田の市街地は、遠くに八甲田の山並みを望む平坦な台地の中に、整った街区が続く特徴的な街ですが、冬季における北西の季節風が強いことも地域性の一つです。歩車共に雪や風を避けて安心して訪れやすいように、メインアプローチは病棟階の多角形のボリューム形状が張り出すピロティ空間にある主玄関へと誘導し、天候にかかわらずアクセスしやすい形態としました。機械室やサービス諸室を病院機能と離した配置とし、その間に屋内的な車路を通し、物品の搬出入やサービスアプローチを安全に行うことができるようにしています。
また、季節の気温変動だけでなく、朝晩の寒暖差も大きいことから、24 時間・通年稼働する病棟部分に外断熱工法を採用し、年間を通じて安定した温湿度を保ちやすくしました。一方で外来などの運用時間が限定される階は内断熱として空調の立ち上がりを速くし、効率的にエネルギーを使えるようにしています。
訪れやすい外来診療空間
エントランスホールは、間接照明を用いて明るく十分な拡がりをもたせ、外壁タイルや軒天を一部引き込んだ街路的な演出をすることによって、初めて病院を訪れる方にも開放的でゆったりと感じられる空間としました。
一方で外来診療部門は、このホールから少し奥まった位置に待合と診察室群をひとまとまりとして配置し、プライバシーが守られ、落ち着いた環境としました。
ユニット型の病室群
入院患者にとって、ひとりになることができる場所とその周辺環境が重要です。4床室であっても各ベッドに窓があり、袖壁で三方囲むことで安定感のある個室に近いベッド廻り環境としました。治療に応じて、自傷・他害など特有の症状に配慮できる保護室や準保護室、身体的ケアを重視した観察室、感染対応時には隔離室となる個室など特徴のある病室を設定しました。
また、いくつかの病室と、身近な水まわり、自然光や風を感じる光庭、談話コーナーで構成されたまとまりをユニットと捉え、病室から一歩出た先の環境が大きすぎない空間としています。患者にとって一番基本的な生活行為であるトイレや洗面、入浴・洗濯などを行う中で、この小さな共用部で少しずつ他者とのかかわりや会話が生まれることを期待しています。いずれのユニットもスタッフステーションからさりげなく見守ることができ、夜勤時などのスタッフの安心感にもつながる配置となっています。
段階的に選択・拡張できる生活空間
患者が社会復帰に向けた様々なリハビリを行う中で、閉鎖環境でも活動を段階的に拡張できる多様な空間を用意しました。病棟内にはユニット廻りの生活の場や食堂など複数の居場所を設け、その延長に、日中のリハビリ空間としての作業療法室があるように同じフロアに配置しました。さらに専用のリハビリ階段で1階のアリーナや中庭まで活動を拡げる仕掛けをつくり、運動や屋外活動を安全に行うことができるようにしています。患者自身が主体的にこれらの場所を選択し生活することにより、病棟やその延長の中でも社会復帰に向けた活動の準備ができる環境を実現しました。
地域と共にある“いつでも頼りになる治療のための病院”
住宅と田畑が混在する周辺環境の中で、外観はモザイクタイルと左官材の2種類を切替えて外壁を分節化した、繊細で威圧感のないファサードとし、地域のスケール感に近づけました。落ち着いた赤色のせっ器質タイルとアリーナの屋根がシンボルとなり、街全体が白い雪景色となる時期においても地域の中で存在感を示し、“ いつでも頼りになる治療のための病院”を建築的に表現しています。
建築概要
建築主: | 一般財団法人 済誠会 |
所在地: | 青森県十和田市 |
病床数: | 210床 |
構造規模: | 病院/鉄筋コンクリート造一部鉄骨造 地上4階 アリーナ棟/鉄筋コンクリート造一部木造 平屋 |
延床面積: | 11,576m² |
竣工年月: | 2024年3月 |
撮影: | 十和田済誠会病院(※)、増田寿夫写真事務所 |
文責:小島千知