「本物の豊かさ」をもとめて

代表取締役 鈴木 慶治

昨年元旦の能登半島地震から一年。さらに9月には豪雨災害も加わり、地理的要因も重なり今でも復旧が進まない状況です。被災地の皆様には改めて心からお見舞い申し上げます。

私たち設計事務所が貢献できるまでには時間がかかり、いつも情けなく思うのですが、神戸や東北の時のように、時間をかけて復興のために尽力できたらと考えています。

そのような中、その能登半島の付け根、白山市にある「公立松任石川中央病院」の第七次増改築工事が昨年12月に着工に至りました。震源から100kmという距離にもかかわらず揺れは少なく、病院の皆さんは被災者を医療者として支え続けながら、熱意をもって議論を続けてくださり、私たちは設計を進めることができました。皮肉にも震災があったことで災害拠点病院としての機能強化を図るなどの計画を後押しする形になりました。工事の段階に入りましたが、現在の設計を技術面で監理するだけでなく、計画・機能・デザイン共にもう一度見直しを掛けながら、丁寧により良い作品に仕上げなくてはなりません。

日常に使われる我が国の建物で“ひとの寿命”を超えて長生きするポテンシャルの高い建築は残念ながら“まれ”です。戦後の早期復興と経済効率が影響しています。多くの医療福祉建築も例外ではありません。改めてこの時代に考えるべきは、災害にも強く地球環境にも優しい“世紀単位”で大切に使うことができる“まち”を丁寧につくっていくことです。しかし国内では人口減少・高齢化が進み、海外では紛争が止まない時代の中でこれを実現することは容易ではありません。その結果建設コストが異常高騰している近年、完成する都内の巨大病院はぱっと見“豪華”ですが中身は機能を満たしているだけという味気ない建築が散見されます。私が無謀にも「病院の建築の質を何とかしたい」と思い、我が社の門をたたいた頃に逆戻りしてしまっているのではないかと感じることさえあります。インバウンド需要のホテルや都市の再開発、物流巨大倉庫などの建設計画が十分ある建築業界では、手間がかかり収入に繋がらない医療福祉への取り組み意欲は希薄です。しかし医療福祉はどの時代にも必要であり、その施設は常に「健康」であることが求められます。

私たちは日常の生活の中にあるべき「本物の豊かさ」とは何かを常に考え、時代にふさわしい環境づくりをこころがけています。プロジェクトの大小に限らず、医療・社会・環境、様々な背景を十分理解し、提案を行うことができるプロフェッショナルでありたいと考えています。時代を超えてその質を維持することに苦労は少なくありませんが、人材不足で何をするにも時間がかかることを前向きに捉え丁寧な取り組みをし、共感してくれる仲間を増やして、実質的に社会に貢献できるものでありたいと考えています。

今後とも皆様のご指導・ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。

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