未来へ向けて「建築」がすべきこと
代表取締役 鈴木 慶治
この1年も様々な出来事が起こり、多くの喜びと共に多くの大切なものが失われました。栄枯盛衰はものごとの常ですが、あらためて人間社会の危うさを感じた一年でした。その象徴的な出来事はやはりロシアによるウクライナ侵攻です。北朝鮮の度重なるミサイル発射も相まって、平和ボケの日本でも自衛隊の予算を大幅に増やさなければならない判断を迫られています。
誰も戦争など望んでいないのに、抗戦すれば国民の被害は大きくなることはわかっているのに、敵を作り戦う支度をせざるを得ないのでしょうか?
またロシアへの経済制裁に円安が手伝って原油が高騰し、電気代をはじめあらゆる物価が驚くほど上昇しています。東日本大震災時、原発の停止により暗くなった街を見て、「もう電気の無駄遣いはしない」と誓ったはずなのに…。アンコントロールな原発は動かせないからといって、当面は火力発電でまかない再生エネルギーによる発電への転換を進めていくはずだったのに、国から電気節約のお願いが出され、結局、当面はと言いながら原発に頼る構図に戻りつつあります。
戦後復興から高度成長期を経て今日までの、ごく短時間に築いた現在の我が国の制度や価値観は、やはり軽薄であると言わざるを得ません。それでも、目の前の危うい「平和」「幸福」を維持し、「欲望」満たすためにその軽薄な活動を継続せざるを得ないのでしょうか。今も社会は経済成長を目標とし、これを妨害する他の人間を排除しようとします。これは人間の理性を超える「性(さが)」としか言いようがありません。その結果、人間が環境を危うくし、自らが生き辛い地球に貶めています。
しかし電気のなかった長い歴史の中で、先人の工夫によって素晴らしい「文化」が形成され、それは現在も継承され我々の財産になっていることも確かです(残念ながら争いの歴史も途絶えることはありませんでしたが…)。
我々が扱う「建築」は築かれる時代の「人間」そのものです。理性、経済、欲望で満たされています。建築が「性」の結晶であるならば、我々は「理性」をもってできるだけ様々な意味で地球に負荷を与えることのない「健康」な建築を心掛けなければなりません。先日のサッカーワールドカップで、日本サポーターの観客席や選手のロッカーの「後片付け」が世界に評価されていました。我々が作った建築もゴミ(廃墟・遺物)にしてはいけません。自然の摂理を利用した再生可能の原則を利用したものづくりをすることで豊かさや愛情を感じることができる環境をつくり、適正な使い方・メンテナンスがなされ的確に修繕・改修を加えることで、長く健康的に使い続け、寿命を迎えたら自然に返すことができる。そのような建築プロジェクトを、皆様と共に計画しなければならないと思っています。容易なことではありませんが、一つ一つこの課題を乗り越えていくことで、未来が開けるものと信じています。
(2022年12月20日)