持続可能な未来のために
代表取締役社長 鈴木 慶治
2015年国連サミットで採択されたSDGsは、人類の共通目標としてここに来てやっと広く認識され始めています。未来のために、すべての地球上のひと(生物)が継続して生きやすい環境を作り、守るための社会システムを速やかに構築しなければなりません。しかし現実には、新型コロナウイルス感染拡大が進むこの期に及んでも政治家が経済か命かという選択さえ答えが出せないような状況です。(このような中でも、日々治療や介護にあたっている多くの医療・介護従事者・関係者とそのご家族に、まずはこの場を借りて心より敬意を表します。)この新しい形のウイルスの流行は人間が経済的な豊かさばかりを追い求めた結果のようにも思えます。私たちは本物の豊かさ質の高い生活とは何か、そしてそれを支える建築はいかにあるべきか。を見つめなおす良い機会と考えています。ここ数年、建設コストの大幅な上昇もあって、私たちの業界においても、かつてのように効率の良い施設設計ばかりに評価が集まり、私たちもそこに意を尽くさざるを得ませんでしたが、目の前の便利さ経済性にも増して、皆を幸福にするための本物の選択を設計者の立場で今以上に発信できるようにしていかなければなりません。
私たちのように、同種の医療福祉の建築を数多く手がけ、複数のプロジェクトを経験すると、その建築に対する視点・方向に一定の傾向というものを見出すことになります。その傾向から生み出され、複数の施設で評価されたプランやディテールの蓄積や成功体験は、私たち医療福祉建築設計者の大きな財産であり、設計を進めるうえでの重要な手掛かりになり、まさに「発信すべき提案」になります。しかし、評価を得たはずの提案は、医療・介護手法の違いによってその評価が逆転することや、繰り返し使うディテールはその「かたち」が独り歩きをし、本来の趣旨を理解されないまま形になり、その施設にとって使いにくいものになってしまうことがあります。つくづく改めて建築がやはり「一品生産」であることを思い知らされ、常に基本に立ち返り、物事の成り立ちの意味をクライアントと共有することの重要性を感じます。また看護・介護行為は施設ごとに同じではないこと、医療介護スタッフは一人一人がプライドを持つ専門職であり個々人で考え方が異なることを実感し、それがゆえに皆を幸福にする選択をすることの難しさを感じます。
SDGsはお互いの違いを認め合うことも大切な目標の一つとなっています。それぞれの個別性を認め理解するためには、今後ますます「質の高いコミュニケーション能力」の必要性を感じます。コロナ禍において、ひざを突き合わせ、お互いの呼吸を感じながらの交流は難しい時代です。新しい時代に相応しいその能力は私たち一人一人が独立した建築設計のプロフェッショナルとしての自覚を持ち、あらゆる分野に耳目を開き、自らを一層高めることにより、その能力を獲得でき充実するものと信じています。今後もその努力を欠かさず、「その建物を利用する全ての人の生活を豊かにする」という思いをプロジェクトの中で実現し、継続可能な豊かな未来を私たちなりに創っていきたいと思います。