4. 集合住宅

1976  ライオンズマンション池之端・東京・大京観光

都市住居の一つとして集合住宅(アパートメント)の形は、今後ますます切実な意味をもつであろう。そのなかで、この国のいわゆるマンションは、民間企業の経営によるだけに、採算条件のきびしいのが通例である。その枠のなかで、設計者に問われるのは、いかにして居住性能にすぐれ、既存の街並みにふさわしい表情をもった建物を産み出せるか、という一事であろう。しばしば問題にされる「欠陥マンション」のみならず、ふだん見かけるマンションのなかに、居住者にかならずしも満足を与えず、周辺住民からも評判のよくない例が多いのは、その商業性に基くとはいえ、最終的には設計に携わったものの責任といわなければならない。

この池之端に建つマンションを手がけるに当り、設計者の念頭にあったのは、上記のような既成事実の重さである。そのうえ、ここ池之端は、上野公園不忍池に画し、都心では得がたい環境をもつ地域である。したがって、われわれが設計の構想を練るさい最も留意したのは、この池之端通りの街並みのなかに、上野公園の側から眺められる景観の一要素として、どのようにしたら、まわりの風景を損わず、しかも彫りの深いたたずまいの都市住居を実現しうるか、ということであった。

幸い建築主に恵まれ、法規制と商業ベースとの厳しい条件にもかかわらず、当初の意図どおり、バルコニーの深い軒の出の影によって特徴づけられる一マンションを実現しえたことは幸運であった。

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