2. 幼稚園

1978  大岡山幼稚園・東京・日本福音ルーテル教会

紙がインクを吸いこむように幼児の心は身辺の環境から事物を写し取る。その意味で幼稚園の設計はこわい。時折見かけるように、保育室の壁一面を強烈な色彩の模様で構成するような試みは、他の建築作品ならともかく、園児の精神を中心に考えるとき、とても容認できることではないであろう。

われわれの設計態度の具体例として、この大岡山幼稚園に即して言えば、幼稚園は成長過程にある子供たちが、初めて接する集団生活の場であり、そこで遊びや学習を通じて、それぞれの個性が発見されるとともに、生活の基本的規則を習得する、社会的しつけの重要な役割を担っている、という認識が、その根本である。

設計者としては、その意味で、園児の生活領域のひろがりを大切にすることに主眼をおいた。

たとえば、各保育室は同じ形式にしないで変化を与え、日のよく当るコーナーと同時に、北向きの落ち着いた空間をも大事にし、開放的な大きなスペースも閉じた狭い空間も、ともに経験できるよう配慮した。また、1・2階をたっぷりとした吹抜け階段で流動的に結び、内部空間全体として、子供たちがいろいろな空間感覚を体験できるようめざしたつもりである。

幼稚園のばあい、とりわけスケール(寸法)とテクスチュア(質感)とに神経を配らなくてはならない。この大岡山でも、できるだけ家庭的な雰囲気と、自然の材料のもつ暖かさと柔らかさとを感じとれるように意を用いた。

ページ
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10