7. 精神病院

1962 都立松沢病院・東京・東京都

精神医療のための建築は,すぐれて人間的でなければならない。それは心を病んだ人たちに手をさし延べることが,すぐれて人間的な行為であることに対応しているばかりでなく,より積極的に,精神病院の造り方で精神病の治療的環境を醸成すべきであるという必要性に対応している。

後者についていえば,患者の院内生活とその空間-独り居の寝室まわり,友と語るデイスペース,大勢で食事を共にする食堂等-は,対人関係の段階化に沿って,さりげなく人間的な心配りがされてなければならない。ここでは庭のたたずまいさえ,治療-病める心の修復-に奉仕すべきものとなる。数ある建築の種類の中で,精神病院の建築ほど建物の一つ一つの細部まで,建物が建てられる目的のために統合される建築も少いのではないかと思う。

私たちは,この松沢病院での十数年に及ぶ継続的な設計作業の中で,そのことを痛切に学んだ。 建築のもつもろもろの属性,その優しさ,豊かさ,時にはその荒々しささえもが,心を病んだ人たちの支えとなり,快復への励ましになることを願わずにはおられない。

ページ
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10