1. 診療所

1977  木村医院・千葉・木村氏

ふだん着で行ける-この気易さ、親しみを患者にもってもらうこと、これが街の中の医院・診療所にとって大切な条件の一つであろう。建物としても、まずその点に細やかな配慮をしなくてはならない。まわりの街並みとの関係で、そこにはどのような表情と雰囲気とをもつ建物がふさわしいか、そして玄関まわりに始まって、受付・待合室・診療室、さらには医師の生活空間をも含む全体を、どのように配分し、相互に結びつけるか-これは、いわば一軒の住宅を設計するばあいと同じである。

ここに挙げたのは住宅公団の一団地内につくられた診療所だが、周辺の高層アパートとは対比的に、独立住宅のスケールで、親しみやすい外観をつくり出すよう努めた。南側の前庭から玄関へという近づき方も、家の雰囲気に似ている。しかし違うのは待合室で、外からも中の様子がわかるよう、窓を大きくとり、明るい印象をつくっている。

街の日常的な生活に溶けこむとは言っても、医院・診療所はれっきとした医療施設である。清潔と衛生上の管理とが行き届かなくてはならないことはもちろん、医療設備の合理的配置が求められる。そして複雑な機能をもつ総合病院とは違って、医院・診療所の設計のばあいには、単純かつ基本的な機能だけに、患者と医師との双方にとって使い勝手のよい、細心な処理が必要とされよう。同時にまた、そこは医師にとっては仕事の場であるとともに、生活の場でもあり、それだけに建物のはしばしに至るまで神経を通わせなくてはならないはずである。

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